竹中 平蔵

- 経済ってそういうことだったのか会議 -

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掲載の本

経済ってそういうことだったのか会議 日本経済新聞社

著者紹介

1951年生まれ。一橋大学経済学部卒。日本開発銀行、大蔵省財政金融研究所研究管、ハーバード大学客員准教授、大阪大学経済学部助教授を経て、現在、慶応大学教授(経済学博士)。テレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」のコメンテーターをはじめ、テレビ・雑誌などで活躍。昨今では、経済戦略会議のメンバーとして数々の提言を行い、現在IT戦略会議の主要メンバー。サントリー学芸賞、エコノミスト賞など数多く受賞。わかりやすい解説と温厚なスマイルには、多くのファンがいる。著書に『対外不均衡のマクロ分析』、『日米摩擦の経済学』、『ソフト・パワー経済』、『みんなの経済学』、他多数。

本の概要

経済学関係の本としては、珍しくベストセラーになり、35万部突破。クリエーターとして有名な佐藤氏は経済が大の苦手。その彼がぶつける様々な疑問にユーモアを織り交ぜながら明快に答える経済学者、竹中氏。軽妙なやり取りに「経済の本質」が浮かび上がってきます。この本の特異性は「経済」という固いテーマを扱いながら、「経済って一体なんだろう?」「経済って難しくないですよ!皆さんに関係のあることなんですよ!」と話しかけてくる所です。

私たちは好むと好まざるに関わらず、経済社会とは切っても切れない生活をしているわけです。税金を払ったり、買い物をしたり、専業主婦だって消費者として経済社会に参加しているわけです。「経済」というものに対する興味を持たせる本として最高の良書だと思います。私は学生時代「経済学部」でしたが、4年間を通じて、「経済学とは、いかに難しいか?」を学んだだけだったような気が致します。この本を読んで感じた事は、「経済」って専門の学問ではなくて、我々の生活に密着した身近なものなんだなぁ~という事です。これからの時代、まさに「経済」を知らないと損すなぁ~っていうのが実感です。

目次

エコノミクス(経済学)って、もともとはどういう意味?

エコノミクスって、ギリシャ語の『オイコノミクス』からきているんです。オイコノミクスとはどういう意味かといいますと、共同体のあり方、という意味なんです。経済学は、利己的な利益の追求を理論づけるだけの学問だと思っていた僕は、その言葉に少なからぬ感動さえ覚えてしまった。我々が、個人としてだけでなく、みんなでどのように生きたら皆で幸せになる事が出来るか?それを発端とする学問がオイコノミクス、つまり経済学の始まりだったのです。株も税も、世の中全体がうまくいく為に我々の祖先が考え出したことなのです。

第1章、お金の正体?

経済は信用が全て
貨幣の価値は、たとえそれが紙だろうとゴミだろうと、みんなの「信用」によって決まるのです。牛乳ビンのフタだろうと、みんなが「貴重」と思えば、そこに「価値」が生まれるのです。ところが、ある日一人の少年が大量にフタを持って来た為にその価値が急落する。つまり、牛乳ビンのフタに対する「信用」が失われてしまうのです。信用が失われた貨幣は、その瞬間、その価値を失って、ゴミになってしまうのです。

今、私は一万札を持っていますけど、なぜ1万円札を大事に持っているかというと、これは日本銀行券だからなんです。私は日本銀行を信用してるんです、今の時点では。もう一つの理由は、街に出れば街の人も日本銀行を信用してこの券を受け取ってくれるだろうと信じているからなんです。

信じるという行為が無くなったらマネーでなくなってしまうのです。今の日本経済の問題はまさにそこなんです。信じられなくなったんですよ。大銀行でさえ…。つまり、信用の危機、信認の危機ですね。やっぱり経済は信用なんです。信用が崩れると、我々の寄って立つ貨幣経済というものは、すごく脆いですよ。

お金の三つの役割

①価値尺度(物事の価値を測る尺度「あなたの労働力はどのくらいか?」「1ドルが105円」などなど)②交換手段(「この本ください」という時に、交換手段としてお金を渡す)③貯蔵手段(お金は肉や野菜みたいに腐ったりしない。価値をためる為の手段)

結局、ドルが金(ゴールド)の裏付けがなくなってもお金、マネーであり続けたのは、この三つ目のお金の役割を果たしていたという理由が最も大きかったから。つまり、「ドルの国アメリカは大丈夫だ」という、アメリカそのものに対する信頼感。

円が国際通貨にならない理由
円建ての資産を持っていても、「日本政府はちゃんとこの国を運営していくだろうか?」「日本政府はちゃんとやっていけるだろうか?」っていうことになると、誰も信用していないということになるんです。残念ながら世界の多くの人々は、大切な資産を、円で持ちたくないと思っている。マネーというのは要するに、「その通貨を発行している国が信用できるかどうか?」という事になってしまうのです。

通貨主権
国がなぜその国のお金を発行するか?お金を発行しておきさえすれば、お金の量をふやしたり減らしたりすることによって、政府は国の経済を安定させる事が出来るのです。いわゆる「金融政策」です。通貨を自分の権限において操作する事が出来れば、政府は有利なんです。しかし、パナマは自分の国のお金を発行していません。通貨主権を放棄している…。ドルにすがっていく方がいいと考えたからです。考えてみればブラジルにしろメキシコにしろ、自分で通貨を持っているがゆえに、その通貨の価値が不安定で苦労しているわけだから。これは、まさに、その国の政治・経済の実態を信用できるか?ということなんです。パナマの国民から見れば、パナマ政府よりアメリカの政府の方が、むしろ信用できるということになるのです。

当座預金
預金者が支払いに備えて、とりあえず口座に預けておき、預金者の請求があれば小切手と引き替え払い戻してくれる銀行預金。当座とは、「さしあたり」という意味。アメリカでは、一般の人も当座預金を持つのです。みんな小切手を使うから個人でも当座預金を開くのです。しかも、なんと当座預金に金利がつくのです。これを「ナウ・アカウント」といいます。

偽札が出回れば誰が損する?
お札を1枚と考えるとわかりにくいんですけど、今あるドルと同じ枚数の偽札を作ったとしましょうか。そうすると、ドルの価値が半分になりますよね。よって、ドルを持っている人みんなが損するんです。逆にいえば、少しくらいの偽札ならほとんど変わらない、つまり誰も損しないで、作った人が得するだけで終わります。

どのくらいのお金が今、世の中に出回っているのか?どうやって計算するの?
簡単です。例えば日本なら日銀がどれだけ出したか?について測っているわけです。つまり出したお金は「ある」事になっているのです。という事は、今出回っているお金と同額の偽札が作られ、同時に今流通しているお金が燃えてなくなり、全部偽札と入れ替わったとしても、お金は「あることになっている」からお金の価値は変わらないのですか?皆が正しいお金だと信じている限りは、その通りです。そういうところがお金の面白いところなんです。

第2章 経済の怪しい主役-株の話

株の仕組み
起業を始めようと思ったら、まとまった大きなお金が要りますよね。そのお金は、その企業の基本的な所有者、つまり株主が出すか、他人から借れるか、この2つしかないわけです。このお金を調達する2種類の方法の中で特に重要な部分が、株主が出す部分です。

そこで企業を永続的な組織にしてしまうと、一つ問題が出てくるんです。例えば、ここにAさんとBさんが半分ずつ出し合った会社があったとします。しかし、何かの理由でAさんが「出資金を返して欲しい」と言います。

その出資金を返したら、会社は潰れますよね。そうならないように、お金を出資した人たちが「自分の権利」というものを、例えば十とか二十に割って、それを紙切れの証文にして、その権利を売買するようになったわけです。それが「株」なんです。

という事は、企業は続くけれども、持ち主は常に入れ代わって売買できる、流通できる。それが「株の仕組み」なのです。株式のことを「シェア」と言うんです。皆が出し合って好きな時に売れるからシェアするっていう。そうゆうふうに皆で出し合って、ある時は会社に出資したり、ある時は逃げることも出来る。そして、これが肝心なことなんですが、出資者はお金を出しているだけだから、会社がもし倒産しても責任が有限なんですね。単純に株を損するだけなんです。株式じゃない個人の会社だと、借金を払い尽くすまで無限に責任を負わなきゃいけないですね。有限責任だとそういう心配が無いからお金を集めやすい。この株式という制度があったからこそ経済は発展したのです。

株価を動かしているものは?
株主は、会社が上げた利益の配当を貰うわけですが、これは私が投資したことに対するフルーツ(果実)です。例えば百円の元手があって百円投資したことに対して五円戻ってきたとすると、利回りは五%です。一方この同じ百円を株ではなく銀行へ預けたとしましょう。金利が三%だったとして、株がもし預金と同じように安全だったとしたら、私は株を買います。配当は、株主総会で年に一回しか決まらないから、そんなに変わりません。つまり、預金金利より配当の利回りが低くなったら誰も株を買わなくなってしまいます。金利の方が高くなれば、株を売って銀行に預けるようになるからです。逆に日本銀行が無理やり金利をコントロールして、金利を下げたら株価は上がります。(預金を下げて皆が株を買うようになって、株の値段が高くなります。)

株式と美人コンテスト
株式や為替市場というのは、いわゆる「美人投票」という考え方です。「美人投票」では、私やBさんが、誰を美人と思っているか?というのは重要では有りません。「誰が美人だとみんなが思っているか?」ということを競い合って当てるわけです。ビジネスにおける投資は、確かにギャンブル的な要素を否定できませんが、ケインズはこれを「アニマル・スピリッツ」と呼んだのです。ベンチャーキャピタル=新しいビジネスを切り開こうとする意欲は旺盛だが、資金が足りない企業家に投資・融資すること、または組織。

会社は一体誰のもの?
株を持っている人はその会社の所有者ですが、所有者は経営をしません。所有者はあくまでオーナーであって、経営者とは違うのです。だからプロの経営者を雇ってマネジメントを分ける。オーナーも何らかのチェックをしなければいけないから株主総会という制度が出来てくるわけです。これを「経営と所有の分離」と言います。ところが1980年代ごろから経営と所有の分離と言う考え方が再び変わってきました。「会社はオーナーのものだ!」と。持ち主がシッカリと経営者の尻を叩いて、会社を監視しなければいけない。これが「コーポレート・ガバナンス」という考え方です。つまり、「企業」を支配しているはずの株主がもっと積極的に発言して、良い会社にする為に(収益を上げて高い配当を得る為)、経営(者)を監視するというもの。

日本の株式会社の特殊性
日本の企業の株式は誰かというと…。別の企業なのです。企業同士が株式の持ち合いをしているわけです。こうなるとコーポレート・ガバナンスなんて働かない!A社とB社がお互いに株式を持っていたとします。そうすると本来ならA社の社長は株主としてB社にいろいろな事が言えるのだけれど、「おたくの事には口出しをしないから、その代わりうちの事も言わないでくれよな!」という談合が暗黙の内に成立します。だから日本では株主総会に誰も来ない事を前提にしているのです。このような「安定株主」がいる事によって、健全な個人投資家を全部排除してしまう結果になったのです。結局後に残ったのは、法人株主と総会屋だけという形になってしまったのです。
もう一つの特殊性は、コーポレート・ガバナンス、つまりオーナーの監視が行き渡らなかったがゆえに良い面もあったのです。実は、配当しなくて良かったのです。儲かったお金はほとんど配当していないですよ…日本の会社は。そのお金は企業の内部留保になります。そして、それをさらなる設備投資に使ったから日本はこんなに短期間でこれだけの急成長ができたと言うのも事実です。

よくニュースで耳にするダウ(平均株価)って何?
ダウ・ジョーンズ社という所が30の会社の平均株価を求めて、マーケットが今どちらの方向に向いているかを知る為の手掛かりとして考えた仕組み。つまり、上向きの相場なのか、下向きの相場なのか、相場の風がどちらの方向へ吹いているのかを示す。「自由にいつでも取引できますよ、かつ有限責任ですよ」というのが株式のメリットですから、その本来のメリットを生かすためには、できるだけ幅広く市場への参加者を増やす必要があったわけです。その為に、こういうものが出来て風の方向を示そうとしたのです。つまり、専門的なものではなく、みんながわかるように目安をつけたわけです。日経平均というのは、225社でやっています。

ナスダックって何?
ニューヨーク証券取引所というのは、上場された株を排他的に取引するという場所ですが、ナスダックは、上場の条件を柔軟にし、証券取引所を通さなくてもコンピューター・トレーディングで、もっと自由に取引できる場所で、ナスダックは、そのシステムの名前が由来です。

株はどうして「上場」するの?
一部や二部の上場の「基準」があって、それを満たせばいいわけです。「上場」を英語で言うと、「プレイス」、つまり「置く」って言う意味です。プレイス…つまり「場に上げる」と言うことです。取引する場所があって、「うちの株を置く」事です。それを売ったり買ったりするのです。そういうところから来ています。「ここに置いているものは、ちゃんとした株ですよ!」というお墨付きみたいなものがあれば、みんなが安心して買いにくるわけです。上場とは違うのですが、株式を公開して売買されるということでは、店頭登録というものがあります。最近では、東証にマザーズが出来ました。これも一定の基準があって証券業協会に申請して審査を受けて受理されれば株式公開できます。

色々な会社を上場したがるのは何故?
新しく上場すると、今まで非公開な形でしか取引されていなかったので、良い会社は一気に高値がつきます。そこで、ベンチャー企業の話が重要になってくるのです。ベンチャーというのは、店頭公開や上場した時に高い株価がついて、そこで最初に出資した人が大儲けするのです。つまり、キャピタルゲイン(資産の価値が上昇して生じる利益)を得るわけです。ビジネスの給料で儲けるなんてたいした事はないのですが、大きいのは、株式を公開ないし登録、上場した時のキャピタルゲインなのです。企業の将来価値が高いと、それは二桁も三桁も違う株価がつきます。そうすると、そこで1千万の投資が、10億にもなって出資者に返ってきたりします。だから上場や登録は、起業家、企業を起こす人にとってはすごく重要になってくるのです。

大手企業なのに上場していない会社があるのは何故?
個人の意思があまり強く反映するような会社は、認められない。つまり、ワンマンのオーナーがいる会社というのは上場できません。それから、投資家の中には、主婦の人も取引するわけだから、安心して取引できるようにという事で何年間か黒字を出していないとダメという条件もあります。

増資って何?
資本金を増やすことです。つまり、株式を新たに発行すること。資本金1千万の会社が2千万にしたいと思ったら、もう新たに1千万円分の株式を出して流通させるわけです。そうすると、1枚の株の価格が下がります。だから、株主総会を開かなきゃいけないのです。その会社がより大きくなる為には、それが必要だと判断すれば、それは認めるということになります。

株式市場の民主化
近頃は、企業同士が持ち合っている株式が、マーケットに出てきています。資本効率が低いから企業はもう持ちきれなくなっているのです。そうするとマーケットに出てくるから、今、郵便貯金とか銀行に預けているお金持ちがもっと株を買うはずです。そんな人たちを相手に、わけのわからない事を言うと相手にされなくなります。衆人の目にさらしていくって重要なことです。

第3章 払うのか?取られるのか? 税金の話

税金のシステムは誰が作ったのだろうか?
民主主義というのは、税金の問題から始まっているのです。昔王様がいた時代には王様の内ポケットと国家財産の区別が無かった。すると王様は、必ず無駄使いをするのです。ローマの時代からずっとそうでした。見事なまでに無駄使いをする。そうすると必ず財政赤字になるわけです。そこで税金を上げるわけですが、その重税に国民が絶えかねて国が滅ぶのです(これがすなわち君主制度)。そこで、王様に無駄使いさせたり勝手に上げさせないように、議会でチェックしようという働きが出てくる。それが民主主義の始まりなのです(租税民主主義)。ブルジョワジーと言われるような有産階級の豊かな人たちが、王様と相談しながら税金のことをあれこれ決める。これが民主主義の始まりです。

税金こそが「共同体のあり方」
「共同体の形」というのは、経済の問題に関する限り、結局税金だと思います。だから各国とも行政指導をやめて、補助金をやめて最後に残された行政というのが税金・税制なのです。アメリカとかイギリスとか、成熟した社会では、結局政策というのは税金のことに尽きるのです。

ヤクザと政府は同じ?
税金というのは結局ヤクザのみかじめ科みたいなものです。国は強制的にお金を取るのに大義名分を並びたてるけど、ヤクザはいちいちそんな事は言わない。ヤクザはその地域の私設警官みたいなものでみかじめ科を払っていさえすれば、もめごとが起きたときに酔っ払いを追い出してくれるわけです。政府の役割というのは国民が寝ている間も守ってくれる。そういう武力を背景にして、治安を保証する代わりにお金を無理やり取ったという事です。

税金の取られ方
どういう人に税金を払わせるべきか?①応能負担:払う能力のある人に払ってもらう(能力に応じて)。(例:所得税)②応益負担:それを楽しんだ人、便益を受けた人が払う。(例:消費税)

税金による所得の再分配効果
Aさんはとても所得が多い。一方Bさんは所得が少ない。そうすると、BさんはAさんからお金を分けて貰いたいわけです。政府を通してBさんは貰う事が出来るのです。Aさんは、いくら働いても税金を取られるのでやる気をなくしてします。一方、Bさんは、そんなに働かなくても食べていけるということで、まじめにやる気が起きなくなってしまう。だから、政府がお金を税金として取って、その所得を再分配するような社会の機能が大きくなりすぎると、その国はダメになってしまうのです。

日本の所得税の累進課税はどの位?税制の実態!
1998年度の数値では、所得の高い人は65%を税金で持っていかれます。2/3近く持っていかれるのは問題ですね。10年前の税率は何と80%位だったのです。「取れるところから取ればいいじゃないか!」というヤクザみたいなところが国・社会に厳然として残っているのです。つまり、日本に住まなくて、外国に住めば良いわけです。そうすと何が起こるかというと、本当にやる気のある人が、どんどん外へ出て行くという事が起きてくるのです。

日本の場合、課税最低所得は491万円(98年度の例)です。例えば、一組の夫婦に子供二人を「標準世帯」と言うのですが、4人家族のサラリーマンで年収491万円の人は所得税はゼロです。平均すると、月40万貰っているわけだから…。こんな国は世界中探しても日本だけです。さらに住宅減税とか入ると、年収700万円くらいの人も所得税はゼロです。イギリスの課税最低限というのは、100万円位です。アメリカは200万円。

日本の税制の実態

①人口の所得上位6%が税金の40%を払っている(不公平)②残り94%の国民が税金の60%をしか払っていない(不公平)

A.サラリーマンの30%が所得税を払っていない(課税の最低限が高いから)。(不公平)B.サラリーマンの70%が高い所得税を払っている。(不公平)

Aの場合、所得税減税をしても対象にならない。(税金を払っていない人に減税のしようがない。)そこで政府が考えた苦肉の策が、98年に実施された地域振興券」である。

源泉徴収について
国民から税金を集めるには、コストがかかります。税務署も必要だし、企業は経理と税の担当者をおく必要があります。徴税コストは安ければ安いほどいい。もし、サラリーマンが一人一人が全員税務署に行ったら窓口は大混乱します。だから一括して企業の経理でやることを義務付けているのです。これを「源泉徴収」といいます。

この源泉徴収というのはある意味では徴税コストをすごく安くしますが、一方では大きな問題があります。自分がいくら税金を払っているのかあまり考えなくなる…。いわゆる納税者の納税意識が高まらないのです。負担感が無いのです。給料が振り込まれた時には、全て終わっているわけですから。「年末調整」というのは、毎月毎月、源泉徴収した税金を会社が預かって、それを会社がその人に代わって納税するわけですけど、貰いすぎたとか貰い足りないとか…。年末調整までやってくれると、サラリーマンはもう税務署が何処にあるかも知らないまま、一生を過ごすこともあるのです。今の徴税の仕方では、普通のサラリーマンは無関心でいられる。むしろ無関心でいさせるシステムなんです。

関税の話
貿易に対して税金を課すということはどこでもやっていることです。関税というのは、輸入したり輸出したりするものに税金をかけるわけですが、これは発展途上国にとっては、すごく大事です。つまり、「外国のものを買うくらいだからお金があるだろう」、そういう人からお金を取ればいい…という考えなのです。例えば、外車の関税を200%かけると、買う人が少なくなりますね。そうやって国内の自動車産業を保護すると同時に、金持ちからは税金も取れるわけです。アフリカなどでは、関税の収入は国全体の収入の50%を超えている国がたくさんあります。

人のあり方まで変えてしまう税の恐ろしさ
ルーマニアのチャウシェスク大統領は「国力とはすなわち人口なり」の政策でたくさん子供を産んだ人には税金を取らないで逆に奨励金を出しました。そして、国民は子供をどんどん産むようなりました。ところが、ある日突然共産党政権が無くなってしまったのです。とたんに子供を育てられなくなる。彼らはどんどん子供を棄てたのです。これがいわゆる「チャウシェスクの子供達」です。政府の罪は重いです。人の生活を露骨に変えてしまったのですから…。逆に中国では「一人っ子政策」です。2人以上子供を持つと、様々なペナルティーが生じます。これは重い税金をかけられるのと同じ事です。子供を何人産むか?というのは、人間の一番根源的な部分です。そんな事に、国家が介入してはけないのです。

第4章 何がアメリカをそうさせる!

★アメリカが外交に優れているのは何故?
アメリカという国は、国家と国家の交渉というものにとても慣れているのです。なぜなら、州がそれぞれの憲法を持ていますから州と州の間で、日米間に見られるようなトラブルなんか、しょっちゅうあったわけです。それに対して、日本では、県と県がトラブルを起こすなんて事はありません。アメリカでは国内政治の中にすでに外交の要素が入っていて、それをいかに統合していくか?共通のルールを作るか、独立性をある程度認めるかなどを、19世紀からやってきているのです。だからこの「連邦主義」というのが他の国特に日本には全然無い、非常に大きな特徴になっています。

フロンティア・スピリッツが強いアメリカを作る?
アメリカの性格を特徴づけた大きな要因を挙げると、西武開拓という歴史上の経験でしょう。こういう経験を持った国は、近代国家には有りません。多くの国では、かなり早い時期に終わっています。日本では封建時代の話です。ところが、アメリカは19世紀の終わりまでズーッと開拓していたのです。そこには白地地域があったということです。つまり、フロンティアがあったがゆえに、アメリカの中に独特のシステムが自然に出来上がった。

フロンティアを開拓していくのに、国はどうしたら良いか?というと頑張れば頑張るほど儲かるような仕組みを人為的に作っておいてやればいいのです。「隣の人をかまうより、自分で開拓しろ!そうしたら、この広大な土地は全部自分のものになる!」と。そうやって早い者勝ち的な競争の理念がアメリカ人の頭の中に刷り込まれていったのです。アメリカの経済システムは、こうして出来上がっていったのだと考えられます。だからフロンティアがある時は、アメリカは他の国より絶対強いのです。

アメリカがスピード優先の国になった理由
今まで国境を越えて移動できるものって、そんなに有りませんでした。ところが、国境を越えて、人間を含めて色んなものが移動できるようになると、共通のルールが必要になってきます。そこでルールってどうやって出来るのでしょうか?最初に誰かが始めたものをみんなが真似するようになって、それがルールとして定着していくのです。これが「ドゥーファクト」です。まず事実を作れ!ということになります。それがドゥファクト・スタンダードになるのです。

決してアメリカが「早くやらないとミサイルを撃ち込むぞ!」といっている訳じゃ有りません。ほっといてもみんなアメリカの真似をしている。これはアメリカが「ドゥファクト」で既成事実を作って世界を引き付けていることを意味しています。では、早くやる為にはどうしたら良いか?いろんな試行錯誤をたくさんやっている国が絶対強いです。「下手な鉄砲も数鵜ちゃ当たる」なのです。規制緩和をして何でもやってください!となると自然に1万に一人くらいの割合ですごいアイディアを持った人間が現れるのです。

日本みたいに「そうゆうことをやったら、まかりならん!」というような規制があったら成功者など出て来ないのです。アメリカでは学者の移入が自由で、競争しているのです。だから世界中からどんな山奥からでも優秀な人がいれば引っ張って来るのです。日本の場合は、移民法とか出入国管理法の大きな障壁があります。日本にも「出来る人」はたくさんいるのです。ただ、日本社会では出来にくい…。規制がたくさんあって…。

アメリカには「産業」という言葉は無い
アメリカの経済学には産業というコンセプトは無いのです。よって業界団体というのが有りません。ならば、どうして日本にあるのか?要するに産業というのを一括して発展させなければいけない事情が、後発の日本にはあったからです。自分の国が競争力をつける為には、日本だと政府が補助を与えて強くする。これに対してアメリカで競争力をつけさせる方法はただ一つ…。それはもっと競争させることなのです。鉄鋼業界とか電気業界とか「業界」という言葉がありますが、これはいつ頃出来たか?というと1930年代の第二次世界大戦の頃、国家総動員法によって作られているのです。目的は「統制」する為です。業界というのは、もともと非常に特別な概念だったのです。統制と結びついて通産省がまとめて…。自由な競争とは相容れない概念なのです。

第5章 お金が国境をなくす 円・ドル・ユーロ

なぜヨーロッパは独自の通貨を棄てたのか?
ヨーロッパが通貨をユーロで統合した理由は…以前は例えば、ドイツの人がフランスからワインを買いたい時に、ストレートに買えない訳です。一度どこかで換金しなければなりません。換金、交換には手数料がかかります。さらに日々、レートが変動します。予定していた値段で売ろうと思っていたら、レートが変動して値段の設定が出来ない…。交換の手間と為替差損、これを無くせる事がユーロが一つの通貨を作るメリットです。

共通の通貨を持つことでヨーロッパ全体が非常に強いユニットになって、ドルや円に対抗できるわけです。逆に通貨の統合によるデミリットは通貨主権が持てなくなってしまうという事です。例えばフランスから見れば、自分のところで通貨の調整が出来なくなります。

つまり、各国独自の金融政策が出来なくなってしまうわけです。物価が高くなったら金融引締め…といった通貨の量を自分で調整する権利を持つ事が出来なくなります。この体制の中心は、フランスとドイツなのです。

中央銀行は、ドイツのフランクフルトにある。ドルに対抗する為にヨーロッパの復権をかけてやっているという事だと思います。EUの加盟国15カ国でユーロに参加している国は11カ国、残りの4カ国は入っていません(イギリス・デンマーク・スェーデン・ギリシャは不参加)。

ドルが基軸通貨になった根源
ドルが圧倒的に持たれるようになった理由というのは、アメリカが最初にまずドルで各国に貸付を行ったからなのです。そうすると各国はドル建ての債務を持つわけです。ドル建ての債務を持ったら、ドルで返さなければいけないから、安全を確保する為にある程度ドルの資産を持たざるを得なくなります。だから最初に貸付を行って、相手にドル建ての債務を持たせたから、結果的にドルは基軸通貨になったという面があります。

最初にドルのばら撒きをやったのです。しかも戦後間もない時に…。1947年のマーシャル・プランもその一つです。円を国際化させる為には、どんどん円で貸して、円建ての債務を持たせるのです。そうすると、アジア諸国は円建ての資産を持たざるを得なくなりますから、円は国際化します。しかし、ばら撒かれることによって円は下がります。

経済統合の5つの段階
①自由貿易=各国間で貿易障害を撤廃し、お互いに自由に商売できるようにしようという約束(NAFTAなど)。
②関税同盟=自由貿易圏というのはお互いに自由に貿易しましょう…という事だけですが関税同盟は、そのユニットが外に対して共通の関税を課しましょう、外に対して一つにまとまりましょう、というもの。
③市場の統合=お金と物の移動を自由にしましょうというもの。(単一市場、統一市場)
④経済の統合=経済の統一
⑤通貨の統合=より深い経済統合、より完全な経済統合で各国間の通貨の統一。
①~⑤はある程度経済の発展段階が同じでないと行えない。

第6章 強いアジア、弱いアジア-アジア経済の裏表

アジアの経済危機は何故起きたのか?
一夜にして天国から地獄へ落ちたタイ:大幅な経常収支の赤字がずっと続き通貨が引き下がってしまったのです。つまり、為替レートの大幅な下落。為替レートというのは、株式と同じ「美人投票」です。「経常収支の赤字がだいぶ厳しいぞ!」ということはみんな気付いていたのですが、大量の外国資本流出をきっかけにして、他の人間もそう考えているんだとわかったとたん、一気に暴落したわけです。もう一つの困った問題は、海外の投資家からみると、今までバーツ(タイの通貨)に投資するという事は、例えばタイに工場を建てる、つまりバーツ圏に資産を持つという事に等しいわけです。

それまではバーツはドルとリンクしていたので安心していた投資家も、バーツが暴落することによって「もうバーツなんかに投資できるか!」と思うわけです。そうすると、急激にバーツに対する投資が止まってしまうのです。つまり、外からの資本が流入して来なくなる。それどころか、もっとバーツが下がるといけないということで、あわてて引き上げる。発展途上国にとって、海外から資本が入ってこなくなるというのは致命的です。バーツのドルの安定的な関係が崩れたことによって、資本が流入してこない、ないしは流出してしまう。それによって、国内の投資が一気に冷え込むのです。これが連鎖的に、韓国に飛び火したのです。そしてアジア全体に…。

貧しい国はいつまでも貧しいのか?
貧困の悪循環=所得が低い国→所得が低いから食べていくのがやっと→貯蓄が出来ない→貯蓄が出来ないと投資が出来ない→投資が出来ないと経済が発展しない→経済が発展しないから貧しいまま=だから、貧しい国はいつまでたっても貧しい。

経済発展の2つのモデル
貧しい国から経済を発展させる為には、自分のところにお金が無いなら、よその国からお金を借れてでも、とにかく政府が主導して何か事業をやるしかない!そのやり方には2つあります。産業には川上と川下という考え方があって、最初に作られるものが川上です。ですから素材は川上です。川上で鉄を作れば、川下で自動車が出来るはずだと考えます。だから産業というのは川上から前のほうに展開させていくのだというのが「前方連環」という考え方です。日本の明治時代の官営工場の八幡製鉄がその典型。また、ソ連が鉄から始めました。歴史的にみて、このやり方は、必ずしも上手くいっていないのです。

もう一つの考え方は、川下から徐々に川上に向かっていくの言うもの。例えば、先に川下の消費財を作って、それを伸ばしてから川上に移って行くやり方。これを「後方連環」と言います。こちらの方が上手くいくようです。実際、アジアはこれをやって発展しました。なぜ、上手くいくか?鉄より、まず消費財の方が必ず需要があるからです。需要があるという事は、必ず儲かるということです。では、その中でどんな消費財から作ればよいのか?消費財の中でも、特に今輸入しているものを作る。それで競争力をつけたら、今度は輸出できるようにする。輸入しているものを作れば、外貨を節約できるのです。

日本はまさに、それをやったのです。それが繊維だった。香港は雑貨からやったのです。雑貨の次は機械に移っていきます。ソ連は川上からやったので鉄の工場と発電所とダムばかりあるのです。日本は鉄もやりましたけど、たまたま繊維もやっていたから偶然上手くいったのだと思います。

1980年代にアジア経済が爆発的に発展した理由
日本・アジア・アメリカの経済トライアングル関係:1980年代入ると、アジア全部の経済が良くなりました。その時に大きな役割を果たした一つの要因が、日本だったのです。日本はアジアの発展途上国にまず中間財(部品)と資本財(機械)を輸出し始めたのです。

つまり、日本は技術の供給者となり、アジアの発展途上国が生産者となりました。これを買ってくれる人、消費者・消費国がアメリカだったのです。ラッキーなことにアメリカのレーガン大統領が新しい政策を行ってアジアを助けてくれたのです。それがレーガノミクスです。この三角関係は素晴らしいシステムでしたが、一つだけ大きな欠陥がありました。それはアメリカは、いつまでも買い続けられないことです。

この結果、アメリカは巨額な赤字を抱えてしまいました。ドルは一気にドル安に向かいました。逆に円は相対的に高くなったのです。そうなると、もう製品を買ってくれる人がいなくなってしまうので、これでアジア経済の発展は止まったと考えた人も多かったようです。しかし、予想外の事が起きたのです。アジアの中で比較的所得の高い韓国、台湾、香港、シンガポールが、その他のアジアの国の製品をどんどん買い始めたのです。なぜ買う事ができたか?というと、これらの国はどれも小さな国ばかりで、国内の労働市場が小さい。だから賃金もどんどん上がっていったのです。

所得が上昇したので、タイやインドネシアなど他の国々からの輸入を増やしたのです。賃金が上昇するという事は、国際競争力が低下します。これじゃいけない!ということで、今度は他のアジア諸国に投資し始めました。つまり、かつて日本が自分達にした事を、他の発展途上国にやり出したわけです。つまり、投資するという事は、技術の供給者になる。輸入するという事は、消費者になるということです。

第7章 今を取るか、未来を取るか 投資と消費

★消費と投資の違い
ここに1万円を持っているとしましょう。これでお寿司をパッと食べてしまう=消費。同じ1万円を使って英会話を習ったとしましょう=消費(将来の価値が形として見えないのは消費となる)。企業が工場を建てる、新製品を作るための機械を買う=投資。つまり、消費とは読んで字の如く「費やして消えてしまう」ことです。跡形も無く…。おすしを食べても英会話を習っても、お金は消えてなくなります。

経済学的に「投資」という場合は、費やして消えるものではなくて、将来リターンを得ることを目的としてお金を投下することをいうのです。つまり、将来の価値を生み出すのが投資です。消えて無くならないもの。投資というのは具体的にいうと、何かを作るためにセメントを買うこと、鉄骨を買うこと、屋根の材料を買うことです。

一方の消費は、例えばパンを買うことです。物を買う、お金を支出するという点では、セメントを買うのと全く同じです。ところが消費は将来のものを生み出さないのです。今の日本が経済が停滞している。それはどういう事かというと、日本には良い投資のネタが無い、ないしはそれを探し出せないということです。フロンティアが見えないと投資も出来ません。そこでケインズはこう言ってるわけです。「投資こそ経済を発展させる牽引力であって、それを実現するのは、起業家のアニマル・スピリッツである。」勇気をもって挑戦しろ!と。

教育は投資か消費か?
例えば、私がどこかのパソコンスクールに通うとします。講習料というのは、私にすれば教育費です。実はこれは、「消費」になるのです。教育という目に見えないものは、認定が非常に難しいからです。物としてとか、工場として残っている場合は認定がしやすいけれども、頭に入れてしまったものは、外から見てもわかりませんね。そういう無形の資産については、投資と思わないで消費とみなそう…ということになります。経済学上、税法上は消費とみなされるのです。つまり、いくら有益なことでも知識のように目に見えないものならば、それを取得する事は「消費」、いくら役に立たないものでも形のあるものを手に入れるのは「投資」となります。

ベンチャーキャピタルとは?
主にスタートアップ段階の企業(事業)向けに、株を持つことよって資金を提供する機関。その企業が上手く成長すれば利益の配当が期待出来るうえ、株式を公開することになれば大きなキャピタルゲインも得られる。

今流行りに言葉になっている「IR」って何?
インベスターズ・リレーションズの略。インベスターズとは投資家のこと。企業が投資をしてもらうために投資家(主に投資信託のファンドマネージャー)などに対して、「うちは一生懸命やっております」とか、「将来性があります」とか「だからあなたの投資は、将来に対してリターンがありますよ」ということをいかにアピールするか、という広報活動。

企業のIRをやるセクションは、広報でしたが今は「IR課」や「IR室」があります。現在では花形的な部署になっている。「投資」というのは、資本主義の根幹に関わる部分なのです。だからアニマル・スピリッツが大事なんです。ひょとしたら失敗するかもしれないけど、成功すれば大儲けできる。いずれにせよ結果については自分が責任を負う。つまり、自己責任においてやっているところが資本主義なんです。だから資本主義においては、その将来の展望を第三者、つまり投資家にハッキリと説明できないとダメなんです。これを「説明責任」というのですが、これがIRの仕事なのです。

コロンブスという人は、イザベラ女王をそういうふうに説得、つまりIR活動を行ったわけです。「海の向こうに何かがある!インドに行く…」と。そしてイザバラ女王に投資をしてもらった。しかし、実際は大間違いだった。そこはアメリカだった…。そこにいた人たちにも「インディアン」という名前まで付けてしまったわけです。いまや歴史の方が修正が効かなくなってしまって…。

無駄な投資?
政府が行う投資を「公共投資」と言いますが、それをするのは主に官僚です。「道路整備何ヶ月計画」とか「河川整備何ヶ月計画」って立てます。このプロジェクトに群がっている業界というのがあって、その業界を潰さない為に投資を続けるという図式があるのです。だから無駄な投資が一杯されてしまったわけです。その挙句「熊しか通らないスーパー林道」が出来てしまいます。例の「アクアライン(東京湾横断道路)」もそれに近いものがあります。川崎から乗って木更津に着いたらその先は高速道路が無いのですから…。

「木更津に行くだけの為にあるのか?」というスゴイ橋です。あの橋は、半分トンネルで半分橋という妙な作りになっていますが何故だかわかりますか?これは、セメント業界と鉄鋼業界が利権を分け合う為にセメントと鉄の両方を使えるようにした結果です。だから、途中までトンネルにして途中から橋にしたのです。もう一つの例は、「道路公団」これは道路を作る事が専門です。最初のうちは、それなりに機能していたと思いますが、なにしろ日本は広くないですから、必要な道路を作ってしまった。しかし、解散は出来ない。その結果、生き残る為に必要の無い道路を作ること。これが仕事になるわけです。

第8章 お金儲けはクリエイティブな仕事-起業とビジネス

★エクジット・ストラテジー(出口戦略)って何?
日本だと規制があって、なかなか起業しにくいわけです。ところが起業が自由になって世界で何でもできるようになってくると、次に重要になってくるのは「何をいつやめるか?」というストラテジーになります。起業とは逆で、そこはエクジット・ストラテジーを考えておくわけです。「どうなったらやめるか?」と。例えば、「3年間やってみても利益が3%を超えない場合はすぐやめる」とか…。それをやらないと大変なことになるのです。日本ではまだ本当に企業が少ない、規制もある。だから、エクジット・ストラテジーのことを真面目に考えている企業は少ないです。始めるよりむしろ、やめる方が決断が難しいのです。

M&Aとは?
会社(事業)を買収したり合併すること。経営体質の強化の為に、他の会社や事業を取得したり自社の不要な部門を売却するケースが増えている。M&Aは、実はエクジット・ストラテジーを考える上で、絶対必要なのです。今の日本の銀行が、まさにその道を歩んでいます。「自分達はこれが得意だ、ここを強化したい!」という部門については、よそから買うわけです。しかし「これは不得意だ!」という部門は売ってしまうのです。これがM&Aです。

他人の土俵で相撲を取れ
カネボウは以前は紡績をやっていましたが、資生堂が牛耳っている化粧品業界に参入した時は、見事でした。資生堂が例えば10だとすると、当時のカネボウは1くらいの売上しかなかったのです。しかし、資生堂が春のキャンペーンで口紅をやると、カネボウは負けじと口紅をやるんです。そうすると一般の人には、10対10の会社に見えてしまうのです。

秋にアイシャドウをやると、カネボウもアイシャドウをやるんです。そうすると一般の人には、10対10の会社に見えてしまうものです。10対1の売上しかないと思わないのです。そして、カネボウの売上も上昇して10対3とか4になっていくのです。つまり、相手の大きな舞台を逆利用しているのです。そうすると対等になるのですよ。真っ向から喧嘩すると。アメリカのとっている市場経済拡大戦略に真っ向から立ち向かえば、小国だろうと言い分は一対一なわけです。マレーシアのマハティール大統領がまさにそうですね。

★デフレーション
不況などによりモノが売れず、継続的に価格が下がっていく現象。モノが売れないから企業の業績は悪化、従業員の給料が下がり、さらにモノが売れなくなったり失業が増えたりすることで、結果的に深刻な不況に陥ることになる。デフレ環境に対抗するには、技術革新を含めた商品部の絶え間ない新陳代謝が必要なのです。リスクをとらないとリターンは、上がらない。それが成熟したマーケットなのです。

日本に会社ってどの位あるの?
約280万社です。建設業だけで50万社あるのです。建設業が減っていないのは、「無駄な公共投資」のおかげ?なのです。起業が増える事は良いことなのですが、数よりもどれだけの価値が生み出されるかが重要なのです。

世の中は自分の目で見ろ!
大企業の部長より、小企業の社長の方が自分で「世界を見る目」を持っています。リスクを負っている人の真剣さ故だという事です。成功した起業は、「世の中をよく見て」そして「相手の立場になって考える」という精神を積み上げています。相手の立場になって「何が一番困るのか?」を考える、それを商品化する、そういう企業が成功している事が多いです。「世の中に対して、何が足りないか?」っていうのを試みているのです。

第9章 人間とは労働力なのか? 労働と失業

経済学の使命とは?
20世紀を代表する偉大な経済学者のケインズの言葉を借りるなら、「食べられない人を無くする」、つまり貧困とか失業を無くする為に経済学はある…と言っています。言い換えれば、それが政府の最終的な目的なのです。みんなが好きな仕事を出来るようになる為に政府があるのではなく、人間として最低限の暮らしが出来るよう、皆に仕事がある状態にする、失業を無くするという事です。経済学と経済政策の最大の目標は、失業を防ぐことなのです。この経済学者の仕事が終わった時に、実は本当の人間の問題が始まるのです。つまり、自分はどう生きるか?自分の幸せとは何か?を考え始めるのです。経済学は、人間を「労働力」と見ているのです。

労働の需要と供給のミスマッチ
例えば団塊世代の中堅管理職が失業したとします。一度失業したら、なかなか仕事がありません。役に立たないからです。今の情報通信革命に対応できないからEメールも打てない。ましてや英語も話せない。だから失業率は確実に増えていきます。

でも考えてみたら、英語が話せる人だったら欲しいとか、通信ネットワークを自由に操れる人だったら欲しいと思っている会社は結構あるのです。だから労働需要そのものが無いわけじゃ有りません。労働需要に合った労働供給になっていないのです。これを「労働と需要のミスマッチ」と言います。

では、このミスマッチをどう解消すればいいかというと、今までずっとサラリーマンをやってきたおじさんが、できるような仕事を作るのではなくて、このおじさんがちゃんと勉強し直せば良いのです。つまり、人的資源を高めることです。教育投資を行う。これを進めるような政策を「積極的労働市場政策」と言います。現実的に仕事が出来なくなった人間を中途半端に扱わないで、その人自身、生まれ変ってもらおうという訳です。この人たちには、マーケットの最先端でも働けるように、もう一度勉強し直してもらうのです。雇用問題は世界共通の悩みなのです。ヨーロッパの多くの国では、失業率は10%を超えているわけですから…。

なぜ競争が激しくなったのか?
10年前、この地球上でいわゆる競争している人たち、市場経済の中にいる人間というのは大体27億人だったのです。あとの人たちは、壁の向こう側にいたのです。もちろん、ソ連も壁の向こう側でした。ところが東西冷戦が終わった。これは決して単にソ連とアメリカが軍拡競争を止めたということではなくて、これによって、壁の向こう側にいた人たちがどんどん同じマーケットの中に入って来たということなのです。

ソ連がロシアになって市場経済になり、東欧も全部市場経済に入る。アジアでも中国とベトナムという、アジアの中でも最も大きな人口が持ったところが市場経済に入ってきました。ふと気がついてみると、今この地球上で市場経済の人口というのは55億人になったのです。27億から55億へ2倍以上になった。こんな事、いまだかつて地球が経験した事がないのです。つまり、マーケットが2倍になって可能性が広がったけれども、競争相手も2倍になったのです。

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日本人は、今までみんな同じようにやっていれば良かった。今はその仕切り直しをする時だと思います。本当は我々の社会や政治の中には、今のものを壊す仕組みというものを必ず持っておかなければなりません。ところが、日本の今のシステムというのは、それがないどころか逆に壊すまいとする非常に強固な仕組みがあります。今の体制を守る仕組みはたくさんあるのです。私たちは、場合によっては外圧をも味方につけて、それらを打破していかなくてはいけません。

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